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(1)続く増加傾向 動向委員会報告から 厚生労働省のエイズ動向委員会は、全国の都道府県などから報告されたHIV新規感染、およびエイズ新規発症情報を集約し、3カ月ごとに委員会を開催してその結果を公表しています。また、毎年4月ごろ、その前年の年間報告に基づく年報の概要を発表しています(年報の概要はエイズ予防財団・エイズ予防情報ネットのウエブサイトの中のエイズ発生動向委員会報告でみることができます。 http://api-net.jfap.or.jp/mhw/survey/mhw_survey.htm 2008年にまとめられた年報概要などを参考にしながら日本のHIV/エイズの流行の現状を見ていきます。最初に2003年から2007年までの5年間のHIV感染者、エイズ患者報告数(確定値)の推移をご覧いただきましょう。 感染者 患者 新規報告全体に占めるエイズ患者 03年 976 ( 640、 336) 34.4% 04年 1165 ( 780、 385) 33.0% 05年 1199 ( 832、 367) 30.6% 06年 1358 ( 952、 406) 29.8% 07年 1500 (1087、 418) 27.9% ここで報告されているエイズ患者は、これまでHIVに感染していることを知らず、エイズを発症したことで初めてHIVの感染が確認されたケースに限定されています。つまり、HIV感染報告とエイズ患者報告の重複はないという前提がとられています。あくまで報告ベースの統計ではありますが、増加傾向が続いていることはお分かりいただけると思います。報告の数値だけでなく、実際のHIV感染も年々、増加を続けていると考えるべきでしょう。
エイズ対策の必要性を強調するために「感染爆発」といった表現が使われることがよくありますが、実際の報告は、ある年に爆発的に感染が増えているといったことをうかがわせるデータではありません。むしろゆっくりとではあるが、確実に増加を続けているといった増え方で流行は拡大していると考えておく必要があります。対策もまた、短期集中的に何かをやって終わりといったかたちではなく、継続的に粘り強く進めていくべきでしょう。 2007年の報告を感染経路別にみると、HIV感染者では、同性間の性感染67.4%、異性間の性感染20.4%、薬物注射使用0.3%、母子感染0.0%、その他2.3%、不明9.6%となっています。 エイズ患者では同性間の性感染37.6%、異性間の性感染36.8%、薬物注射使用0.7%、母子感染0.0%、その他6.9%、不明17.9%です。 なお、HIVが混入した血液製剤による1980年代の血友病患者らへのHIV感染は、動向委員会報告とは別に集計されています。 (2)実際の日本のエイズ患者・HIV感染者数は? 1985年にわが国最初のエイズ症例が報告されて以来の累積のHIV感染者・エイズ患者報告数は約1万5000件です。しかし、これはあくまで厚生労働省のエイズ動向委員会に報告された件数であって、実際に日本国内にHIVに感染している人の数が何人ぐらいなのかは、はっきり分かりません。血液中のHIVというウイルスの抗体や抗原の有無を調べて確認するのですが、感染はしていても、検査を受けていないので感染したことに気付いていないという人もいるからです。 たとえば、2007年の1年間にエイズ患者として新規報告があった418件について考えて見ましょう。ここでエイズ患者として報告されているのは、すでに説明したように、エイズを発症するまで、HIVに感染していることが分からなかった人たちです。 HIVの感染からエイズの発症までの間には平均すると、10年前後の期間があると考えられています。つまり、2008年にエイズ患者として新規報告された人たちは、ほぼ10年間、HIVに感染していたけれど、そのことが確認できなかった(あるいは確認する機会を持たなかった)ということになります。 HIVに感染しているのにエイズの発症まで長い間、感染の有無を調べる抗体検査を受けない人が相当数いることを前提にして、それでは感染に気づいていない人も含めたHIV陽性者(HIV感染者とエイズ患者を総称してこう呼ぶことにします)はどのくらい日本で生活しているのでしょうか。すでに書いたように、はっきりは分かりませんが、これまでの統計を踏まえ、できるだけ正確な推計値を把握するための努力は続けられてきました。 厚生労働省の研究班でHIV/エイズの流行の将来予測プロジェクトに取り組んできた藤田保健衛生大学の橋本修二教授らが2003年に明らかにした推計によると、2001年末時点で推定1万人余りだったHIV時点有病数(その時点でHIVに感染している人の数)が2006年末には約2万2000人と2・1倍に増えると予測しています。 ただし、この2万2000人には、エイズを発症した人は含まれていません。橋本教授らは2006年末の死者も含む累積エイズ患者数は約5000人と推計しています。 したがって、HIV時点有病数と累積エイズ患者数を合わせると、2006年末時点の死者を含むHIV陽性者数(HIV感染者・エイズ患者数)は約2万7000人ということになります。 その2006年末からもすでに2年以上が経過しています。2008年末時点では4万人から5万人に達していると見ておくべきかもしれません。 (3)なぜ検査を受けないのでしょうか エイズ動向委員会への報告件数と実際の感染との間の乖離は、感染していても検査を受けない人が相当数、存在するからですが、それではなぜ、検査を受けないのでしょうか。4つの理由が考えられます。
1.自分がHIVに感染しているとは思っていない。 2.どこで検査を受けたらいいのか分からない。 3.検査を受けて感染していることを知りたくない。 4.感染していることを知ってもメリットがないと思っている。 HIV/エイズに対する社会の関心が低いと1番目、2番目の人が当然、多くなります。HIVの感染はどのようにして起きるのか。そのことに対する知識が伝わっていなかったり、誤解されたかたちで伝わっていたりすれば、感染のリスクの高い行動を取っていても自分がHIVに感染しているかもしれないと思わずに日々を過ごしていくことになります。また、感染したかもしれないと思っても、検査に関する情報が得にくければ、「いずれまた」と情報を得ること自体を先送りしたまま、忘れてしまうかもしれません。 一方、社会の中にHIVに感染した人に対する拒絶や差別の感情、エイズの流行に対する不安や恐怖があまりにも強いと、HIVに感染したかもしれないと思っても、あえて検査を受けない人が増えていくことが考えられます。HIVに感染したら会社を首になってしまう、就職ができない、学校に通うことができない、レストランに入ることを断られる、アパートから追い出されてしまう、結婚できない・・・と、さまざまな不利益が予想されるとしたら、感染を知らない方がましという心理も当然、はたらきます。 4番目は、たとえば、有効な治療法がなかったり、あったとしても経済的に治療が受けられる条件が整っていなかったりするようなケースが考えられます。1990年代の前半まで、世界はおおむねそのような状態でしたし、多剤併用療法による延命の効果が大きく期待できるようになった現在でも、途上国では治療を受けられずに多くのHIV陽性者が亡くなっています。 現在の日本の社会は幸いにして、経済的にも保健医療水準の点からみても、世界で最高レベルの治療を受けることができます。 それでも、社会の中に根強く残るHIV陽性者に対する偏見や差別の感情、あるいはHIV感染の高いリスクにさらされやすい集団に対する拒絶や排除の感情が、検査を受けたり、治療を受けたりすることが必要な人たちを検査や治療から遠ざけている現実はあります。 これまでに世界がHIV/エイズの流行と闘ってきた経験から、感染の高いリスクにさらされやすく、社会から拒絶されたり排除されたりすることが一段とそのリスクを高めるおそれのある集団としては、男性とセックスをする男性(MSM)、薬物使用者(IDU)、セックスワーカー、外国人、移住労働者などで、それらの集団の内部で自らHIV感染の予防対策に取り組むことができるよう個々の集団に対する支援が必要であることがさまざまな国際会議の場で繰り返し強調されています。 若者、女性、少女などが、そうした支援の必要な集団としてとらえられることもしばしばあります。日本のHIV/エイズの流行は、諸外国に比べると極めて低い感染のレベルで抑えられてきましたが、そうした中でも新たな感染の報告が右肩上がりで増加を続けていることは、すでに報告した通りです。日本の流行もまた、感染の高いリスクにさらされやすい集団に対する支援を政策の選択肢として真剣に考える時期に入っており、現実の対策もまた、そうした視点を重視したものになってきつつあります。
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